母、絶句!認知症の父、ついにネコの餌「ちゅ〜る」を吸う【ドキュメント母と娘「父の介護日記」】 |BEST TiMES(ベストタイムズ)

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母、絶句!認知症の父、ついにネコの餌「ちゅ〜る」を吸う【ドキュメント母と娘「父の介護日記」】

母と子はこうしてだんだん疲弊する④

■絶句!まあちゃんネコのエサ「ちゅ〜る」を吸う

イラスト:地獄カレー

2018年12月13日(木)【ネーヤ・記】
 ホームに着くなり「もう忘れられたと思ったよ」と切ない心の内を吐露する夫。鼻をほじりすぎて鼻血を出す。床にも血痕を拭った跡があり。
 年賀はがきを持ってきたので、書いてもらう。「お見舞いありがとう」の字がかろうじて読める。名前は斜めになりながらも達筆なので感心する。とりあえずお見舞いに来てくださった方の分は完成。「他も全部出すよ、ケチケチするな!」と怒られる。
 訪問マッサージの先生から「どの施設でも年末は死者が多い」と聞く。

【ネーヤの俳句】
衰へし 夫居眠りす 冬の昼
首かしげ 何を啄(ついば)む 石たたき
冬日背に まんじゅう食(た)ぶや 夫笑顔

2018年12月14日(金)
 上機嫌のまあちゃん。昼食後に柿とラ・フランスを一気食い。
 剥くと喜んで食べるのが可愛い。厚着させて外へ。空を仰ぐまあちゃん。会話も成立。眠気もない。帰ろうとしたら「もう帰るのー?」と言う。
 カラオケへ。フランク永井の歌を歌って気持ちよさそう。リサイタル状態。ひとり、入居女性から声かけられる。「この前も歌っていらして上手だったのよ、ご主人。リクエストしたいわ」と言われる。父です、と訂正はせず。歌っている最中に、別のおばあちゃんから話しかけられて、まあちゃんがブチ切れかけたのでなだめる。カラオケ中も2回トイレへ。そのたびにユニットへ戻らなければならない。でも空砲だけで、実弾はちびっとだけ。
 夕方、介護士さんの体操タイム。
 まあちゃんがサボらないよう見張るが、案外真面目にやっとる。最初と最後に今日の日にちと曜日を聞かれる。まあちゃん、ちゃんと言えた。「パ・タ・カ・ラ」を繰り返し発声すると、唾液分泌が促されるという。勉強になるなぁ。そういえばノートの表紙にまあちゃんの字で、「エドヴァルドムンク、オスロー美術館」と書いてある。何か感情の発露があったのか。
 私も初めての俳句を詠もう。

【潮の俳句】
娘の顔で 大腸轟(とどろ)く 冬将軍
木枯らしと 無縁の国で 父枯れる

2018年12月21日(金)【ネーヤ・記】
 バナナ、みかん、りんご、月餅を持っていく。
「果物や甘いもの食べたかったんだよなぁ」と夫は感慨深げにおっしゃる。今日は一度も居眠りせずに積極的。散歩の後、フェンスづたいに歩いたりして、スクワットも自分でやる。私も一緒になってやる。
 横になったので寝たのかと思いきや「1年は早いなあ」としみじみ言う。
「12月は特にそう思うよね」と返すと、口を開けて眠っている。夢の中で言ったのか。眠っていたくせに「アコーディオン」と聞いただけで行こうとする。よほど歌いたかったのだろう。

【ネーヤの俳句】
病む夫の 萎(しお)れゆく皮膚 冬深し
くしゃみして 放屁して 夫笑顔かな

按摩師に 駄洒落続々 木の葉髪

2018年12月22日(土)
 食堂で新聞読んでいたまあちゃん。トイレへ行ったら、紙パンツがズッシリ。取り替えて、部屋へ。ラ・フランスを食べさせて「おいしい?」と聞いたら、「美味(びみ)」と答える。最近「美味」と言うようになった。
 さらに蜜入りりんごを食べさせたら、「幸せ~」とつぶやいてにっこり。可愛い。すごいポジティブになってきた! 驚いたし、なんだか嬉しい。
 機能訓練指導員さんの言葉遊びレク。
 ホワイトボードにひらがなが貼ってある。言葉を作って、外していく。おばあさんとまあちゃんしか参加せず。しかしおばあさんがどんどん言葉を作るのに対して、まあちゃんはほぼ作れず。後ろから船場吉兆の女将のようにヒントを小声で出してみる。「え」「と」が残っていたので、「ね、うし、とら、う……なんていう?」とヒントを出したら「十二支」と言う。うん、間違いじゃないけどさ。「他の言い方は?」と聞いても「干支(えと)」が出てこない。授業参観で回答しちゃう馬鹿親みたいだ。

2018年12月25日(火)【ネーヤ・記】
 部屋、ポータブルトイレの周りが汚い。ついでに食堂の夫の席の下も掃除。果物を食べさせる。片手は新聞を手放さず、片手は食べるのに忙しい。
 突然「草津へ行こう3泊で」と言う。しばし、旅行の話をする。いつも突然旅行に行くだの鮨屋へ行くだの話し始めるので、私もその気になって付き合う。それなりに楽しい!
 庭のみかんの木にヒヨドリの大群。凄まじい食欲。なんとか俳句にと思うが、どちらも季語なのでうまくできず。

2018年12月27日(木)【餅つき大会】
 昼に到着。
 餅つき大会だというので、張り切って空腹で来た。異文化祭のときのように、家族は50円とか払えば、つきたてのお餅が食べられると思っていた。ところが……。
 つきたての餅はのどに詰まりやすくて非常に危ないということで、入居者も家族もスタッフも誰ひとり口にはできないというのだ‼ ひとりでも食べちゃうとみんな欲しがってしまうから。パフォーマンスとしての餅つき。この世代は昔、家で餅つきをやっていたから「昔を思い出すトレーニング」の一環なのだとスタッフさんから聞いた。なるほど。
 もちろんまあちゃんも杵を持って、体を支えてもらいながら餅をつかせてもらった。さらに希望者は、大きなテーブルの上で、餅をこねることもできる。まあちゃんも楽しそうに餅をこねこね。私は朝から何も食べずに、あんころ餅を妄想して来たので、失神寸前だ。

【潮の俳句】   
餅こねる 父の手つきは 幼子の如し
餅食えぬ 悲しみ恨みで 腹が鳴る
餅米を 蒸かす香りに誘われて 足を運ぶも 唾しか飲めず(短歌)

 もういくらでも出てくる恨み節。
 まあちゃんは楽しそうだったので、まあいいか。

12月30日(日)【1月4日(金)まで自宅お泊り:ネーヤ・記】
 夫がホームから久しぶりに帰宅。家に着くなり、トイレへ。便器に腰をおろす前にポタポタ漏れている。仏壇にお線香をあげてもらうが、気がついたらお供えの和菓子3個のうち2個を食べていた。
 昼食の支度をしていると、待ちきれなかったのか、テーブルの上の「チャオちゅ〜る」をチューチュー吸っている。チャオちゅ〜るは猫のエサだよ‼
「塩味がする」と言う夫。
 味噌ラーメンを食べ終えると居眠りが始まる。唇を半開きにして熟睡の状態。
 夜、部屋の入口で転び、柱に頭をぶつけた夫。立ち上がれない。出血はない様子。どう起こそうか、以前の悪夢がよみがえる。柱を支えになんとか立ち上がらせる。
 深夜2時半。わずかな物音に目が覚める私。もうすでに下半身がずぶ濡れの夫。電気毛布まで濡れて、マットレスも濡れている。脱がせるも、寒い中ずぶ濡れで立っている夫を早く着替えさせなければ。濡れたモノはとりあえずベランダに積み上げておく。

12月31日(月)【ネーヤ・記】
 朝6時からベランダの汚れ物を洗う。洗濯機、最大量で2回まわす。電気毛布は洗えないので、日に干すだけにしよう。
 夕方6時に大便出る。そのまま入浴。娘たちがいないので、慎重に入れる。無事に済んだ。紅白も他のチャンネルも面白くないので、8時半には布団に入る。今夜は何回起こされるか、考えたくもないが、どうか平穏でありますよう、祈るのみ。

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吉田 潮

よしだ うしお

コラムニスト

1972年生まれ。おひつじ座のB型。千葉県船橋市出身。ライター兼絵描き。



法政大学法学部政治学科卒業後、編集プロダクション勤務を経て、2001年よりフリーランスに。医療、健康、下ネタ、テレビ、社会全般など幅広く執筆。『週刊フジテレビ批評』、『Live News it!』(ともにフジテレビ)のコメンテーターなどもたまに務める。2010年4月より『週刊新潮』にて「TVふうーん録」の連載開始。2016年9月より『東京新聞』放送芸能欄のコラム「風向計」を連載中。著書に『幸せな離婚』(生活文化出版)、『TV大人の視聴』(講談社)、『産まないことは「逃げ」ですか?』(KKベストセラーズ)、『くさらない イケメン図鑑』(河出書房新社)ほか多数。本書でも登場する姉は、イラストレーターの地獄カレー。



公式サイト『吉田潮.com』http://yoshida-ushio.com/



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